福岡高等裁判所 昭和36年(ネ)429号 判決 1962年10月04日
控訴人 宮園政弘 外五名
被控訴人 西日本鉄道株式会社
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人等の負担とする。
事実
控訴人等訴訟代理人は「原判決を取り消す。控訴人等が被控訴会社に対し、雇傭契約上の権利を有する地位を仮りに定める。」との判決を求め、被控訴会社代理人は、主文と同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張並びに証拠関係は、
一、控訴人等代理人において、原判決は、控訴人等が申請外の御手洗及び和田を加えた八名で、集団欠勤の共同謀議をし、右共同謀議によつて公休出勤者七名のほか一般分会員に対しても集団欠勤を強要し、これがため欠勤者が続出した旨、他分会に対しても控訴人等の集団欠勤を支援するよう要請してこれを煽動した旨、更に森田所長並びに柏木主任に対し控訴人蔵本が吊し上げを行い、同控訴人並びに控訴人野村が違法な方法で三井、武井、竹中、穴見、尾崎等に対する業務命令を拒否した旨、それぞれ認定しているが、これらはいずれも事実誤認であつて、斯様な事実のあつたことは、いずれも否認する。公休予定者以外の者に欠勤を勧告強要したことはないし、若干のダイヤの乱れがあつたが、これは控訴人等の責によるものでない。
そもそも申請人等の所属する労働組合と被申請人である被控訴会社との間には、昭和三四年七月一九日当時労働基準法第三六条による時間外及び休日の労働に関する協定書は未だ作成されていなかつたのであり、使用者である被控訴会社が労働者に休日時間外労働をさせること自体が違法であるから、斯様な違法な労働を阻止するため申請人等が組合役員として公休出勤者に対し欠勤するよう要請することを申し合せたのは、違法な労働を解消せしめるためであつて、これを争議行為と目することはできない。又一職場(到津自動車営業所)特有の問題に関する紛争がこじれ、それが原因となつて前記三六協定が締結されていない当該職場で、休日労働が集団的に拒否されたとしても、これを「組合の統制に従わない一部労働者によつて行われる統制違反の争議行為」とみるのは誤りである。典型的な争議行為としての同盟罷業・怠業等であれば、議論の余地もあろうが、本件のような前述の事情下で起つた休日労働拒否が、違法な山猫争議とされるのは、右山猫争議の概念を不当に拡大適用したものであつて不当である。控訴人等は違法な休日労働をしないよう説得したか、又は説得することを決定した打合せに参加したか、のいずれかにすぎないのであつて、控訴人等の行為は順法そのものである。従つて斯様な休日労働拒否を理由に、控訴人等を処分するのは、労働法の精神に反し、公序良俗違反、権利濫用として許されないものというべきである。と述べ、……(証拠省略)……
二、被控訴会社代理人において、控訴人等は公休出勤予定者以外の者に対しても欠勤を要請し違法な争議行為をしたのであつて、このことは原判決の挙示している証拠によつて明白であるばかりでなく、当審証拠調べの結果によつてもこれを動かすことはできない。と述べ、……(証拠省略)……
たほか、原判決の事実欄に記載してあるところと同一であるから、これをここに引用する。
理由
当裁判所も控訴人等の本件地位保全の仮処分申請は、その理由がないものとしてこれを却下すべきものと判断する。その理由は、左の諸点を附加するほか、原判決の理由に説示してあるところと全く同一であるから、これを総てここに引用する。
一、控訴人等の原判決の事実認定に対する誤認の主張について。
原判決は、その理由第二、事件の経緯において、控訴人(申請人)等の採つた行為が一種の争議行為にほかならない所以を、その原因動機であると目される昭和三四年七月一四日施行された被控訴会社の到津自動車営業所に対する業務監査から説き起し、同月一九日今井祇園に要する臨時応援車一台発車のための就労拒否が行われ、更に組合員の集団欠勤のため通常ダイヤ七系統が倒れる結果を招来した事実を逐一詳細に明らかにし、その間控訴人等を含む八名の集団欠勤の共同謀議があり、右共同謀議による公休予定者並びに一般組合員に対する欠勤強要がなされ、控訴人等を含む組合員の集団欠勤がなされた模様、他分会に対する煽動、森田所長等に対する吊し上げ、及び乗務命令拒否の各事実のあつたことを認定しているのに対し、控訴人等はこれを否定して事実誤認の違法があると論難するのである。
そこでこれらの諸点を逐一検討してみるのに、原判決の挙示している各証拠のほか、当審証人武井勉、同和田稔、同力丸利男、同広松敏克の各証言を合せ考えれば、控訴人等が公休予定者はもとより、その他の組合員に対しても何らかの理由をつけて欠勤するよう要請することを申し合せて原判示のような共同謀議をしたこと、原判示にあるような欠勤強要をしたので、公休出勤に当つていた七名(古賀健治、高島軍喜、伊藤進、落合薫、岡本政雄、古賀親義、松山春男)を含め、病気家事の都合を理由に合計二六、七名の欠勤者が七月一九日に出て、今井祇園の臨時応援車の発車ができなかつたばかりでなく、小倉、八幡及び戸幡の各自動車分会、到津電車分会に対し協力応援方を求め、到津分会と同様今井祇園の臨時発車に対してはその就労拒否方を要請して、これら分会に対する煽動を、控訴人蔵本、同野村、同竹中の三名が各自なしたこと、又控訴人蔵本が森田所長及び柏木主任を営業所二階会議室に同日午後二時頃呼び、同控訴人を初め、野村、竹中の両控訴人、三井、武井、穴見、尾崎等殆んどの分会委員が集つている同所で、尾崎の欠勤事由を柏木主任が聞いたことに関し、烈しい論難抗議をして同主任及び森田所長を吊し上げたこと、及びその際、森田所長が、午前中ダイヤが四本も倒れたことを告げ、午後も同様な事態が惹起されそうであるから、午後勤務の者は乗務して貰い度い旨伝えたのに対し、蔵本及び野村両控訴人は「今日は皆届けを出しているから、乗れない」といつて、三井、武井、竹中、穴見、尾崎等に対する業務命令を拒否するに至つたこと、の各事実を認定するに十分である。当審証人樋口典雄、同木村睦子、同吉川久子の各証言、当審における控訴本人六名尋問の結果中、右認定に反する部分は、前掲各証拠と対照して当裁判所の信用しないところで、甲第一八乃至第二九号証はもとより、その他の控訴人側の全立証によつても、右認定を動かすに足らない。従つて前掲事実誤認に関する控訴人等の主張は、いずれも採用の限りでない。
二、控訴人等の就労拒否をめぐる本件紛争は、被控訴会社の違法な労働要求に基づくのであつて、控訴人等の集団欠勤に基因するものでなく、被控訴会社がその責任を負うべきであるとする主張などについて。
控訴人等は、前掲昭和三四年七月一九日当時控訴人等の所属する労働組合、すなわち、西鉄労働組合北九州地区支部及び到津自動車営業所分会と被控訴会社との間には労働基準法第三六条による休日労働に関する協定書が未だ作成されていなかつたので、前掲今井祇園に要する臨時応援車発車のための公休日就労要求は、違法な労働要求であるとし、又右臨時応援車は労働協約第九八条にいう臨時ダイヤに属し、実施前組合の了解を要する事項であるから、これが了解を与えなかつたからといつてこれを違法視することはできないものであるとし、或いは前示通常ダイヤの乱れがあつたのは、到津自動車営業所に適当な人員配車の措置がなされなかつたための当然の結果であつて、控訴人等の行為の結果によるものでないとしてその因果関係を否定するなど、原判決が控訴人等の行為に対し山猫争議であると判断しているのに対し、種々これを反論しているのである。
しかし、これらの点に関しても、原判決がその理由中に説示している判断は極めて妥当であつて、当裁判所もこれとその見解を同じくするのみならず、当審証人鶴岡秀夫、同力丸利男の各証言によつても、これを確認するに十分である。この点に関する当審における控訴本人各尋問の結果は措信できないところで、他にこれを覆えすに足る証拠はない。
すなわち、当裁判所も亦前記基準法第三六条による協定書の要件は、従来の慣行に従い、昭和三四年七月一四日には八月度(七月一一日から八月一〇日まで)の時間外並びに休日勤務を実施して宜しい旨、控訴人刀根から北九州支部営業局に申入れがなされ、次いで同月二八日協定書が作成され同月一一日に日付を遡及して、八月二日基準監督署にその届出がなされていることによつて実質上充足されているとみるのが相当であり、又前掲今井祇園に要する臨時発車運転はいわゆる操車運転であつて協約第九八条にいう臨時ダイヤに包含されないものというべく、控訴人等が採つた集団就労拒否並びにこれに伴い前記臨時応援車の発車運転が阻止されたに止まらず通常ダイヤが倒れるまでの結果を惹起したことを、被控訴会社が担当している営業の公共性と合せ考えれば、控訴人等の行為は明らかに争議行為の一種といわねばならず、而も適法な上部機関の承認を経ずして分会もしくは支部役員の一部の者の計画指導による右のような争議行為は、まさしく山猫争議と呼称されている違法行為であることが、明らかである。
その他被控訴会社が控訴人等に対し右違法な争議行為の責任を追及した点について、公序良俗違反、もしくは懲戒解雇権の濫用として非難すべき事由のある点は、何等発見することができない。
以上のとおり原判決はまことに相当であつて、本件控訴はいずれも理由がないので、民事訴訟法第三八四条第一項第八九条第九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 中園原一 厚地政信 原田一隆)